法律
日本には「盗聴罪」がありません
当事者による秘密録音は原則として適法です。ただし判断の枠組みは人格権で、基準は「著しく反社会的か」。録ることと広めることの違いまで。
録音の前に一度立ち止まる人は多いはずです。これは違法なのか、と。
日本の答えは他の国と少し形が違います。禁止する法律がない代わりに、判断の枠組みが別のところにあります。
基準は「録ってよいか」ではなく、「その録り方が著しく反社会的か」です。
まず、秘密録音を直接禁じる規定がありません
日本の法律には、会話の秘密録音そのものを罰する条文がありません。「盗聴罪」という罪名も存在しません。
そのため、自分が参加している会話を相手に断らずに録音することは、原則として違法ではないと扱われています。
最高裁も平成12年7月12日判決で、詐欺の被害に遭ったと考えた者が相手の説明に不信感を抱いて会話を録音した事案について、相手の同意を得ないで行われたものであっても違法ではないと判示しました。刑事事件についての判断ですが、秘密録音の適法性を語るときによく引かれるものです。
ただし、この判決も録音するについて相当の理由があった事案であることには注意が必要です。無条件に問題なしとしたものではありません。
判断は人格権の枠組みで行われます
ここが日本の特徴です。禁止規定がない代わりに、録音は相手の人格権を侵害しうる行為として扱われ、その程度で判断されます。
有名なのが東京高裁昭和52年7月15日判決です。相手方の人事課長を料亭に招いて接待しながら、自分に有利な供述を得るよう誘導的な質問を行い、その会話を襖を隔てた隣室で録音した事案でした。
判決は次のように述べています。
話者の同意なくしてなされた録音テープは、通常話者の一般的人格権の侵害となり得ることは明らかであるから、その証拠能力の適否の判定に当っては、その録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべき
そして、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束するなど人格権侵害を伴う方法で集められた証拠は、それ自体違法と評価され証拠能力を否定されてもやむを得ないとしました。
この事案自体は、酒席での発言を本人が知らない間に録音したにとどまるとして、証拠能力は認められました。
「著しく反社会的」の目安
実務上の理解としては、脅迫や暴力、不法侵入といった犯罪的な行為によって録音や発言を得るような場合が想定されています。
具体例としてよく挙がるのは、他部署の会議室や役員会議の行われる部屋に録音機材を忍ばせるといった盗聴的なやり方です。自分がその場にいない会話を機械だけで拾いに行く形です。
逆にいえば、自分が参加している会話を普通に録音している限り、証拠として否定されることはよほどでなければ考えにくい、というのが実務の見方です。
証拠能力と証明力は別です
見落とされやすい点をひとつ。
昭和52年の判決は証拠能力を認めましたが、結論としては録音内容どおりの事実を認定しませんでした。 会話を引き出した経緯や方法が誘導的だったことが理由です。
つまり、証拠として提出できることと、その内容が事実として認められることは別です。相手を誘導して言わせた発言は、録音があっても重く扱われない可能性があります。
自然に交わされた会話がそのまま残っているほうが、結果的に強いということでもあります。
自分が参加していない会話は話が変わります
録音行為そのものを直接罰する規定はありませんが、実際にやろうとすると別の罪に触れます。
- 録音機器を仕掛けるために住居や事務所に立ち入れば 住居侵入罪
- 設置のために壁に穴を開けたり家具を壊せば 器物損壊罪
- 携帯電話の通話の傍受は 電気通信事業法、固定電話は 有線電気通信法 の問題
- 態様によっては各都道府県の 迷惑防止条例
部屋に録音機を置いて外に出る、という発想がここに入ってきます。参加している会話を録るのとは、法的にまったく別の行為です。
場所によっては禁止されています
秘密録音自体が適法でも、録音が禁じられた場所で行えば違法です。
法廷内は刑事訴訟規則第215条および民事訴訟規則第77条により裁判所の許可が必要で、無許可の録音が発覚すれば録音の消去や退廷を命じられることがあります。
また、外部に漏らすべきでない性質の会議——たとえばハラスメント委員会の審議内容などを秘密録音した事案では、民法第1条の信義則に違反するとして違法性が高いと評価された例があります。
録ることと、広めることは別です
ここが実際に問題になるところです。
録音が適法であっても、内容をみだりに第三者に漏らすことは別の話です。話者は目の前の相手に言葉を開示したにすぎず、それが他者に知られることを通常は想定していないからです。
漏洩する行為は、話者に対する不法行為として 民法709条 の損害賠償責任が生じうるほか、場合によっては 刑法230条1項の名誉毀損罪 にあたることもあります。
グループチャットに音声を流す、SNSに上げる——録音そのものが適法でも、その先は別に判断されます。
実務的な線引き: 録音は手続に出すもので、人に見せて回るものではありません。
会社の側から見ると
ここまでは録る側の話です。雇う側から見ると、事情はこう見えます。
就業規則で禁止しても効果は限定的です。 企業法務の実務でも、就業規則によって録音を禁止したとしても、すでに紛争当事者となった従業員に対しては効果を期待しにくいと指摘されています。
むしろ「録音されうる」前提でのコンプライアンスが現実的です。 ハラスメント訴訟では秘密録音が重要な証拠になった例が多数あり、録音されて困る言動をなくすほうが、禁止規定を置くよりも確実な対策になります。
取引先や顧客との会話も同じです。 無断録音は違法性や証拠能力の点はともかく、発覚したときに相手の信頼を大きく損なう可能性があります。企業として録音する場合は、あらかじめ周知しておくほうが安全です。
道具としての線引き
TalkSafeは、この区別に沿って作られています。
録音中は通知が表示され続け、消すことはできません。 隠す機能もアイコンの偽装もなく、気づかれないまま録り続ける使い方ができないようにしてあります。想定しているのは、自分が参加している会話を自分で記録する場面です。
伝えないことはできても、隠すことはできない。日本の判断枠組みでいえば、「著しく反社会的」の側に寄らないための設計でもあります。
いくつか補足を
国によって扱いはかなり違います。 ドイツは会話の当事者であっても同意なく録音すれば刑事罰の対象です。アメリカは州ごとに分かれます。海外で使う場合は、その土地の基準を確認してください。
伝えたほうがよい場面は多いです。 義務はありませんが、伝えたうえで続いた会話のほうが、後から見ればはるかに強い記録になります。相手が知りながら話した言葉だからです。
そして、ほとんどの録音は使わないまま終わります。 念のために録っておいて、そのための場面が来なければそのままにしておく。それがこの種の道具の本来の姿だと思います。
相手に断らずに会話を録音するのは違法ですか
自分が参加している会話であれば、原則として違法ではありません。日本には秘密録音そのものを直接禁じる規定がなく、最高裁平成12年7月12日判決も、詐欺の被害に遭ったと考えた者が相手との会話を録音した事案について、相手の同意がなくても違法ではないと判示しています。
無断で録音したものは裁判の証拠になりますか
民事訴訟では原則として証拠能力が認められています。東京高裁昭和52年7月15日判決は、録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきとし、著しく反社会的な手段で人格権を侵害する方法によって集められた場合には証拠能力が否定されうるとしました。
「著しく反社会的」とはどの程度のことですか
脅迫や暴力、不法侵入といった犯罪的な行為によって録音や発言を得るような場合が想定されています。同判決の事案では、酒席での発言を本人が知らない間に録音したにとどまるとして、証拠能力が認められました。
自分が参加していない会話を録音した場合はどうなりますか
録音行為そのものを直接罰する規定はありませんが、録音機器を仕掛けるために住居や事務所に立ち入れば住居侵入罪、設置のために壁や家具を壊せば器物損壊罪にあたりえます。通話の傍受は電気通信事業法や有線電気通信法の問題になり、態様によっては各都道府県の迷惑防止条例にも触れます。
録音した内容を他人に見せてもよいですか
録音が適法であっても、内容をみだりに第三者に漏らすことは別の問題です。話者に対する不法行為として民法709条の損害賠償責任が生じうるほか、場合によっては刑法230条1項の名誉毀損罪にあたることもあります。
この記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
相手に断らずに会話を録音するのは違法ですか
自分が参加している会話であれば、原則として違法ではありません。日本には秘密録音そのものを直接禁じる規定がなく、最高裁平成12年7月12日判決も、詐欺の被害に遭ったと考えた者が相手との会話を録音した事案について、相手の同意がなくても違法ではないと判示しています。
無断で録音したものは裁判の証拠になりますか
民事訴訟では原則として証拠能力が認められています。東京高裁昭和52年7月15日判決は、録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否かを基準とすべきとし、著しく反社会的な手段で人格権を侵害する方法によって集められた場合には証拠能力が否定されうるとしました。
「著しく反社会的」とはどの程度のことですか
脅迫や暴力、不法侵入といった犯罪的な行為によって録音や発言を得るような場合が想定されています。同判決の事案では、酒席での発言を本人が知らない間に録音したにとどまるとして、証拠能力が認められました。
自分が参加していない会話を録音した場合はどうなりますか
録音行為そのものを直接罰する規定はありませんが、録音機器を仕掛けるために住居や事務所に立ち入れば住居侵入罪、設置のために壁や家具を壊せば器物損壊罪にあたりえます。通話の傍受は電気通信事業法や有線電気通信法の問題になり、態様によっては各都道府県の迷惑防止条例にも触れます。
録音した内容を他人に見せてもよいですか
録音が適法であっても、内容をみだりに第三者に漏らすことは別の問題です。話者に対する不法行為として民法709条の損害賠償責任が生じうるほか、場合によっては刑法230条1項の名誉毀損罪にあたることもあります。