仕事
就業規則に書いていなくても、会社は録音を禁止できます
秘密録音は証拠として認められる。それでも録音を理由に懲戒や解雇が有効とされた裁判例があります。証拠になることと、処分されないことは別の話です。
職場の録音について調べると、たいてい「証拠として使えます」という話にたどり着きます。
それは本当です。ただ、その先に書かれていないことがあります。
証拠になることと、処分されないことは、まったく別の話です。
証拠能力のほうは、ほぼ決着している
先に安心できるほうから書きます。
相手の同意を得ずに録音したもの——秘密録音——は、原則として裁判の証拠になります。最高裁平成12年7月12日の判断をはじめ、同意のない録音の証拠能力を否定しない扱いが定着しています。
民事では、著しく反社会的な手段で取得された場合に限って排除されるという枠組みで運用されてきました。他部署の会議室に録音機を忍ばせるような、盗聴に近いやり方がそれにあたります。自分が参加している会話を録音する分には、よほどのことがない限り証拠として否定されません。
実際、録音記録が提出されたことでパワハラの事実が認定された例は珍しくありません。
それでも会社は禁止できる
問題はここからです。
「就業規則に録音を禁止する規定がないのだから、禁止する根拠がない」——この主張は、裁判で正面から否定されています。
裁判所の判断はこうです。雇用者であり事業場の管理運営者である会社は、労働契約上の指揮命令権と施設管理権に基づいて、職場の施設内での録音を禁止する権限がある。そしてそれは、就業規則に明文があるかどうかによって左右されない。
理由も示されています。無断録音が行われている状況では、他の従業員がそれを嫌って自由に発言できなくなり職場環境が悪化する、営業秘密が漏れる危険が大きくなる。だから禁止の指示には必要性が認められる、という組み立てです。
つまり規定を探しても意味がないということになります。書いていないから許されている、という読み方は成り立ちません。
処分が有効とされた例
具体的な裁判例が二つあります。
T&Dリース事件(大阪地判平成21年2月26日)は、業務時間中のICレコーダーによる録音などを理由とする解雇を有効としました。
甲社事件(東京地立川支判平成30年2月28日)はもう少し経過が細かく残っています。会社が録音機の所持を確認し、録音をやめるよう指示したのに対し、従業員側は答える必要はない、自分の身を守るために録音は止められない、と主張を繰り返しました。譴責処分を受けても反省を示さず、今後も続けると明言した。裁判所は、会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で将来の改善も見込めないとして、解雇を有効と判断しています。
この二つを並べると見えてくることがあります。争点になったのは録音そのものというより、正当な業務命令に従わなかった経過のほうです。
禁止できない部分もある
ただし、会社が何でも禁止できるわけではありません。
一般的な整理はこうです。企業秩序を乱すおそれや営業秘密が漏洩するおそれがある場合には、無断録音を禁止する合理性が認められる。従業員側に録音の必要性が特に認められない場面で、一般的に禁止することもできる。
一方で、ハラスメント被害の立証や公益通報のために対象者の言動を秘密裏に録音することまでは禁止できない、という見方が有力です。
もう一つ、処分の側からの歯止めもあります。就業規則の服務規律に録音を定めて懲戒処分を課す場合でも、その行為が企業秩序を乱していなければ適用できません。 一人で黙々と作業している従業員が録音していたところで、誰にも迷惑はかかっていない。そこに重い処分をすれば、不当な処分として無効になり得ます。
会社側から見ると
同じ話を反対側から書きます。
就業規則で禁止しても、紛争当事者になった従業員には効きにくい。 実際、そう指摘する実務家の整理があります。自分の身を守ろうとしている人は、規定があっても録音します。
だから前提を変えるほうが早い、という考え方があります。 秘密録音は行われうるものとして社内コンプライアンスを組み立てる。録音されて困る発言が出ない職場をつくるほうが、禁止規定を整備するより確実です。
取引先や顧客との録音は別の問題を生みます。 違法性や証拠能力の話とは別に、無断で行えば相手の信頼を損なう可能性が高い。
そして本来は、企業の不祥事は企業が主体となって調査すべきものです。 個々の従業員が証拠を集めるのを待つ性質のものではない、という指摘はもっともだと思います。
記録を残したいとき
会話が適法かどうかについては、別の記事にまとめてあります。ここではその手前の話をします。
いちばん確実なのは、書面やメールに残すことです。面談のあとに「先ほどのお話は、こういう理解でよろしいでしょうか」と一通送っておく。返信が来れば、それがそのまま記録になります。録音より軽く、職場での立場も危うくしません。
それでも足りない場面があります。言われた瞬間には、その一言が後で問題になるとわからない。
TalkSafeはそこを埋めるために作りました。あらかじめ言葉を決めておくと、それが聞こえた時点で録音が始まります。画面を開かなくても、ロックされたままでも動きます。
録音が始まると直前30秒までさかのぼって保存されるので、一拍遅れて気づいた発言もファイルに残ります。
ただし、ここまで読んでいただいたとおりです。アプリは会社の規定を解決しません。録音中は通知が出続け、消すことはできません。 隠すための機能はなく、これからも入れません。
結局のところ
証拠になるかどうかと、職場で処分されるかどうかは、別々に判断されます。前者はほぼ心配ありませんが、後者は会社の指示に従わなかった経過で決まります。
そしてハラスメントの立証のような場面には、禁止が及ばないと考えられている領域があります。自分がどちらの話をしているのかを分けて考えるところから始めるのが、いちばん近道です。
一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事情については弁護士や、都道府県労働局の総合労働相談コーナーにご相談ください。
会社は従業員の録音を禁止できますか?
できます。裁判例は、使用者は労働契約上の指揮命令権と施設管理権に基づいて職場の施設内での録音を禁止する権限があり、それは就業規則に明文があるかどうかによって左右されないと述べています。明文がないから自由だという主張は通りにくいと考えたほうが安全です。
録音を理由に解雇されることはありますか?
あります。T&Dリース事件(大阪地判平成21年2月26日)や甲社事件(東京地立川支判平成30年2月28日)では、録音禁止の指示に繰り返し従わなかったことなどを理由とする処分が有効とされました。ただし争点になったのは録音そのものより、正当な業務命令に従わなかった経過です。
秘密録音は証拠として使えますか?
原則として使えます。最高裁平成12年7月12日決定をはじめ、相手の同意なく録音されたものでも証拠能力を否定しない扱いが定着しています。著しく反社会的な方法で取得された場合に限って排除されるという枠組みです。
パワハラの証拠を取るための録音も禁止できますか?
その部分は別に考えられています。企業秩序や営業秘密を理由に無断録音を一般的に禁止する合理性は認められる一方で、ハラスメント被害の立証や公益通報のための録音まで禁止することはできないという見方が有力です。禁止できる範囲は場面によって変わります。
どの録音なら問題になりにくいですか?
業務上の支障や企業秩序への影響が具体的に生じていない録音は、懲戒の対象にしにくいと整理されています。誰にも迷惑をかけず業務にも影響していない場合に重い処分をすれば、不当な処分として無効になり得ます。