職場
相談したことを理由に不利益を与えることは、法律で禁じられています
均等法11条が会社に課している措置義務の中身、2019年改正で明文化された不利益取扱いの禁止、労働局の紛争解決援助、そして何が記録として要るのか。
相談をためらう理由は、たいていセクハラそのものではありません。
その後に起きることです。担当から外される、評価が下がる、居づらくなって静かに辞めることになる——その絵のほうが先に浮かびます。
その部分について法律が何を定めているかは、あまり知られていません。
相談したことを理由に不利益を与えることは、法律で明文で禁じられています。
2019年の改正で明文化されました
均等法第11条は2006年の改正から事業主に措置義務を課してきましたが、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止についての規定がなく、実効性の点で不十分だと指摘されていました。
2019年の改正でこの点が明文化されました(第11条第2項)。あわせて、取引先など他社の労働者との間で生じたセクハラについて、他社から協力を求められた場合に応じる努力義務も設けられています(第11条第3項)。
つまり「相談したら立場が悪くなる」という懸念は、法律が正面から取り上げた問題です。
会社が講じるべき措置
第11条第1項は、事業主に対し、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならないと定めています。
厚生労働省の指針(平成18年厚生労働省告示第615号)が具体的な中身を示しており、実務では次の四つに整理されます。
- 方針の明確化と周知・啓発 — セクハラを行ってはならない旨と、行為者への厳正な対処方針を定めて知らせる
- 相談体制の整備 — 相談窓口を定め、実際に機能させる
- 事後の迅速かつ適切な対応 — 事実関係の迅速な確認、被害者への配慮措置、行為者への措置、再発防止措置
- プライバシー保護と不利益取扱いの禁止 — 相談者・調査協力者のプライバシーを守り、不利益に扱わない
なお対象は男女どちらの労働者も含みます。また「職場」は勤務場所に限らず、実質的に職場の延長とみなされる場も含むとされています。
罰則の形が他の法律と違います
ここは正確に知っておいたほうがよい点です。
第11条が課しているのは国が事業主に課した公法上の義務であり、厚生労働大臣の行政指導などの対象になります。労働者の損害賠償請求権を直接に根拠づける条文ではありません。
とはいえ実務上は、セクハラに関する諸問題の重要な判断資料になります。会社が措置義務を果たしていなかったこと自体が、民事の場面で不利に働きます。
損害賠償を求める場合は、行政による紛争解決とは別に、訴訟や労働審判で請求することになります。
会社の外に相談する
社内の窓口が実質的に行為者と近い場合もあります。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) — 相談を受け付け、行政による紛争解決援助や調停の仕組みがあります。費用はかかりません
- 総合労働相談コーナー — 各労働基準監督署などに設置されています
- 労働組合 — セクハラ対策の担当者がいる場合があります
会社に直接言う場合も、日付が残る形にしておくと後が違います。メールや書面で伝えれば、会社の対応義務が発生した日が同時に記録されます。
記録として要るもの
調査は結局、いつ何があったかを確認する作業です。
- 日付と状況を書いたメモ — その日のうちに数行で足ります。いちばん役に立ち、いちばん行われていない
- メッセージ・メールの画面 — 消される前に
- その場にいた人 — 誰がいたかを控えておくだけでも違う
- 会社に伝えた日付 — 対応義務がいつ発生したかの起点になります
- 相談の前後で変わったこと — 担当、評価、シフト、アクセス権。不利益取扱いを争うときの中心になります
最後の項目が特に重要です。不利益取扱いは前と後の対比で示すもので、「前」は誰かが書き留めていなければ存在しません。
そしてセクハラは言葉で行われることが多い。 目撃者のいない発言、会食の席での言葉、二人だけのときの言葉。これらは画面に残りません。
固まってしまっても、記録は残ります
ここに、あまり語られない現実的な問題があります。
受けている側は、その場で何もできません。
端末を取り出して録音ボタンを押すという動作は、そもそも思い浮かびません。固まってしまうのが普通の反応で、後になって「どうしてあのとき何も言えなかったのか」と自分を責めることになる理由もそこにあります。
そして仮に思い浮かんだとしても、できません。その人の前で端末を取り出して操作するのは、ほとんど不可能です。 した瞬間に状況が変わり、その先に何が起きるかは自分では決められません。
TalkSafeは、その動作自体をなくしています。
あらかじめいくつか言葉を決めておくと、それが聞こえたときに録音が始まります。画面がロックされたまま、ポケットやかばんの中で始まります。 取り出す必要も、点ける必要も、合図を送る必要もありません。
そして決めておく言葉は、自分が言う言葉である必要がありません。 その人が口にしそうな言葉を登録しておけばよいのです。何も言えないまま固まっていても、相手がその言葉を口にした瞬間に録音が始まります。
この場面ではそこがすべてです。 落ち着いていることを前提にした助言は、落ち着けない人にとっては助言になりません。何もしなくても動くほうでなければ意味がない。
録音が始まった時点の直前30秒もあわせて保存されるので、少し遅れて「今のは」と気づいた場合でも、その言葉はファイルの中に入っています。
ずっとつけっぱなしにすればいいのでは
そう思われるかもしれません。それが勧められない理由があります。
一日中つけておくと、自分が参加していない会話まで入ります。 隣の席で交わされている他人の話、部屋の向こうで話されていること。端末を常に身につけていても同じです。その場にいることと、その会話の当事者であることは別だからです。
日本には秘密録音そのものを禁じる規定がなく、自分が参加している会話の録音は原則として適法です。ただし自分が当事者でない会話の録音は話が変わります。証拠能力の判断基準は「録音の手段方法が著しく反社会的と認められるか否か」とされており、他人の会話を機械だけで拾いに行く形はその側に寄っていきます。話者の人格権侵害として民事上の責任が問題になることもあります。
法律の面は別の記事にまとめてあります。
決めた言葉が出たときだけ始まるほうが、楽だからではなく安全だからよいということです。
後から資料として使うときも同じです。8時間のファイルを出せば必要な数分を探すだけで一仕事ですし、無関係な人の会話まで手続きに持ち込むことになります。必要な部分だけが入っているファイルのほうが強い。
録音中は自分の端末に通知が表示され続け、消すことはできません。 自分が参加している会話を自分で記録するためのものです。
調査は双方を対象にします
きちんとした調査は一方の話だけで終わりません。名前が挙がった側にも説明の機会があり、資料を出すこともできます。
事実と違う形で名前が挙がることが皆無ではありません。それは実際にあることですし、虚偽の申告にはそれ相応の問題が伴います。
ただし多いのは圧倒的に、相談できないまま終わってしまうほうです。この二つを同じ重さで並べると、問題の姿を取り違えます。
双方に等しく言えるのは、記録の値打ちです。資料がなければ食い違う言い分だけが残り、そのときどちらが不利になるかは決まっていません。実際に交わされた言葉が残っていれば、どちらが事実を述べていたかがそのまま見えます。
その立場になった場合の注意をひとつ。相談した側に直接連絡して弁明したり収めようとしたりすることは、圧力や二次被害と受け取られることがあります。 手続きの中で進めるほうが安全です。
相談できるところ
ひとりで抱えないでください。
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) — 相談、紛争解決援助、調停。費用はかかりません
- 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター — #8891(はやくワンストップ)。最寄りのセンターにつながり、医療・法律などの総合的な支援に結びつきます
- Cure Time(キュアタイム) — 電話が難しい場合のチャット相談。毎日17時~21時
- いのちの電話 — 0570-783-556(毎日10時~22時)
最後に
記録は手続きのために要るもので、それ自体が目的ではありません。
そして何より、起きたことは受けた側の落ち度ではありません。 その場で何も言えなかったことも同じです。資料を集めるより先に必要なのは、これを一人で背負わなくてよいという確認です。
会社にはセクハラ対策の義務がありますか
男女雇用機会均等法第11条第1項は、事業主に対し、労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけています。厚生労働省の指針では、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止が具体的な措置として示されています。
相談したことで不利益を受けたらどうなりますか
2019年の均等法改正により、セクハラについて事業主に相談したことなどを理由とする不利益取扱いの禁止が明文化されました(第11条第2項)。改正前はこの点の規定がなく実効性が不十分だと指摘されていた部分です。
均等法11条に違反すると罰則がありますか
同条が課しているのは国が事業主に課した公法上の義務であり、厚生労働大臣の行政指導などの対象になります。労働者の損害賠償請求権を直接根拠づけるものではありませんが、実務上はセクハラに関する判断の重要な資料になります。損害賠償は民事の手続で別途請求することになります。
会社に言いにくい場合の相談先はありますか
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。行政による紛争解決援助や調停の仕組みがあり、費用はかかりません。労働組合の担当者に相談する方法もあります。
調査ではどんな資料が使われますか
いつ何があったかを示せるものです。日付と状況を書いたメモ、メッセージやメールの画面、その場にいた人、会社に伝えた日付、そして相談した前後で扱いがどう変わったかの記録が使われます。
この記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
会社にはセクハラ対策の義務がありますか
男女雇用機会均等法第11条第1項は、事業主に対し、労働者からの相談に応じ適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることを義務づけています。厚生労働省の指針では、方針の明確化と周知・啓発、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、プライバシー保護と不利益取扱いの禁止が具体的な措置として示されています。
相談したことで不利益を受けたらどうなりますか
2019年の均等法改正により、セクハラについて事業主に相談したことなどを理由とする不利益取扱いの禁止が明文化されました(第11条第2項)。改正前はこの点の規定がなく実効性が不十分だと指摘されていた部分です。
均等法11条に違反すると罰則がありますか
同条が課しているのは国が事業主に課した公法上の義務であり、厚生労働大臣の行政指導などの対象になります。労働者の損害賠償請求権を直接根拠づけるものではありませんが、実務上はセクハラに関する判断の重要な資料になります。損害賠償は民事の手続で別途請求することになります。
会社に言いにくい場合の相談先はありますか
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。行政による紛争解決援助や調停の仕組みがあり、費用はかかりません。労働組合の担当者に相談する方法もあります。
調査ではどんな資料が使われますか
いつ何があったかを示せるものです。日付と状況を書いたメモ、メッセージやメールの画面、その場にいた人、会社に伝えた日付、そして相談した前後で扱いがどう変わったかの記録が使われます。