職場
業務上必要な指導なのか、それを分ける三つの条件
パワハラ防止法が定める三要素と六類型、会社に課された措置義務、相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止、そして記録として何が要るのか。
パワハラをめぐる話がこじれるのは、たいてい同じ場所です。
「これは業務上必要な指導だ」
言われた側は納得できず、言った側は本気でそう思っている。この境目がどこにあるのかを、法律は一応決めています。
三つの条件を全部満たしたときだけ、法律上のパワハラになります。
三つの要素
労働施策総合推進法第30条の2は、職場におけるパワーハラスメントを次のように定義しています。
- 優越的な関係を背景とした言動であって
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
- 労働者の就業環境が害されるもの
三つすべてを満たすものが該当します。裏を返せば、業務上必要かつ相当な範囲の指導は、厳しくてもパワハラにはあたりません。
「優越的な関係」は上下関係だけではありません。 上司と部下のほか、年上と年下、先輩と後輩といった関係も含まれます。部下が集団で上司に嫌がらせをする場合は「集団」という優越性を背景としたものと考えられますし、特定の部署に長く勤めたスキルのある部下が、新しく赴任した上司の指示を軽視したり拒絶したりするケースも該当しえます。
つまり部下から上司へのパワハラも成立します。
会社には措置義務があります
同条は事業主に、雇用管理上必要な措置を講じる義務を課しています。
大企業は2020年6月1日から、中小企業は2022年4月1日から義務化されました。 中小企業は2022年3月31日まで努力義務でしたが、それ以降は措置を講じていない企業が法律違反になります。
厚生労働省の指針が求めている内容は、実務では次のように整理されます。
- 方針の明確化と周知 — パワハラを行ってはならない旨、行為者を厳正に処分する旨を定めて知らせる
- 相談窓口の設置 — 窓口を定め、実際に機能させる
- 事後の迅速かつ適切な対応 — 事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害者への配慮措置と行為者への措置を適正に行う
- プライバシー保護と不利益取扱いの禁止 — 相談者・行為者等のプライバシーを守り、相談したことを理由に不利益に扱わない旨を周知する
事実確認は双方から行うことになっています。 相談者と行為者の両方に確認し、食い違いが出た場合は第三者からも調査する。これは相談する側にとっても、疑われる側にとっても意味のある手続きです。
相談したことを理由とする不利益は禁止されています
第30条の2第2項が、パワハラについて事業主に相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁じています。
さらに、労働局へ相談したことや調停を申請したことを理由とする解雇等も禁止されています(第30条の5第2項、第30条の6第2項)。
社内で言いにくい場合に外部へ相談する道が、制度として守られているということです。
会社の外の窓口
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室) — 相談、紛争解決援助、調停。費用はかかりません
- 総合労働相談コーナー — 各労働基準監督署などに設置
- 労働組合
社内の窓口に伝える場合も、日付が残る形にしておくと後が違います。メールや書面で伝えれば、会社の対応義務が発生した日が同時に記録されます。
記録として要るもの
事実確認は、いつ何があったかを確かめる作業です。
- 日付と状況を書いたメモ — その日のうちに数行で足ります
- メッセージ・メールの画面 — 消される前に
- その場にいた人 — 誰がいたかを控えておくだけでも違う
- 会社に伝えた日付 — 対応義務がいつ発生したかの起点
- 相談の前後で変わったこと — 担当、評価、シフト。不利益取扱いを争うときの中心になります
そしてパワハラは言葉で行われることが多い。 目撃者のいない場面、二人だけのときの言葉。これらは画面に残りません。
その場では何もできません
受けている側は、その場で端末を取り出して録音ボタンを押すという動作ができません。思い浮かばないことも多いですし、仮に思い浮かんでも、その人の前で操作するのはほとんど不可能です。
TalkSafeはその動作自体をなくしています。
あらかじめいくつか言葉を決めておくと、それが聞こえたときに録音が始まります。画面がロックされたまま、ポケットの中で始まります。 取り出す必要も、点ける必要もありません。
そして決めておく言葉は、自分が言う言葉である必要がありません。 その人が繰り返し口にする言葉を登録しておけばよいのです。何も言えないまま固まっていても、相手がその言葉を口にした瞬間に録音が始まります。
録音が始まった時点の直前30秒もあわせて保存されるので、少し遅れて気づいた場合でもその言葉はファイルに入っています。
ただし一日中つけっぱなしにするのは避けてください。 自分が参加していない会話まで入るためです。自分が当事者でない会話の録音は、証拠能力の判断基準である「著しく反社会的」の側に寄っていきます。この点は別の記事にまとめてあります。
録音中は自分の端末に通知が表示され続け、消すことはできません。
会社の側から見ると
同じ話を反対から見ると、こうなります。
措置を講じていないこと自体が法律違反です。 パワハラが起きていなくても、方針の周知や相談窓口の設置といった措置を怠っていれば違反状態にあります。
相談を受けた後の対応が問われます。 事実確認を迅速かつ正確に行うこと、被害者への配慮措置と行為者への措置を適正に行うことまでが義務の範囲です。相談を受けて終わりにすることはできません。
「指導のつもりだった」は判断基準になりません。 三要素に照らして判断されるため、意図ではなく言動の内容と態様が問われます。
記録がないことは会社にとっても不利です。 事実確認で双方の言い分が食い違ったとき、日常的な指導の記録がなければ「業務上必要かつ相当な範囲」だったことを示す材料もありません。
行為者とされた場合
事実と違う形で名前が挙がることもあります。実際にあったことが、伝わるうちに大きくなっていることもあります。
手続きは同じです。事実確認は相談者と行為者の双方に対して行われ、説明する機会があります。指摘されたことがそのまま認定されるわけではありません。
必要なものも同じです。そのとき実際に何が話されたかを示せるもの。 記録がなければ食い違う言い分だけが残り、そのときどちらが不利になるかは決まっていません。
ひとつ注意があります。相談した側に直接連絡して弁明したり収めようとしたりすることは、圧力や二次被害と受け取られることがあります。手続きの中で進めるほうが安全です。
記録より先に確かめられること
三要素に照らして自分の状況がどこにあるのかは、一人で判断しなくて構いません。
都道府県労働局の相談は無料で、これがパワハラにあたるのか分からないという段階でも受け付けています。記録を集めるより先に、一度そこで聞いてみるほうが早い場合が多いはずです。
法律上のパワハラはどう定義されていますか
労働施策総合推進法第30条の2は、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と定めています。三つすべてを満たすものが職場におけるパワーハラスメントにあたります。
上司から部下へのものだけが対象ですか
いいえ。優越的な関係には、上司と部下だけでなく、年上と年下、先輩と後輩といった関係も含まれます。部下が集団で上司に嫌がらせをする場合は「集団」という優越的な関係を背景としたものと考えられ、特定の部署に長く勤めた部下が新任の上司の指示を軽視・拒絶するようなケースも該当しえます。
会社にはどんな義務がありますか
同法第30条の2により、事業主は雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います。大企業は2020年6月1日から、中小企業も2022年4月1日から義務化されており、措置を講じていない企業は法律違反となります。
相談したことで不利益を受けたらどうなりますか
第30条の2第2項は、パワハラについて事業主に相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止しています。また労働局へ相談したことや調停を申請したことを理由とする解雇等の不利益取扱いも、第30条の5第2項および第30条の6第2項で禁止されています。
会社の外に相談できるところはありますか
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談でき、紛争解決援助や調停の制度があります。各労働基準監督署などに設置された総合労働相談コーナーも窓口になります。費用はかかりません。
この記事は一般的な情報提供であり、法的助言ではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
法律上のパワハラはどう定義されていますか
労働施策総合推進法第30条の2は、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、と定めています。三つすべてを満たすものが職場におけるパワーハラスメントにあたります。
上司から部下へのものだけが対象ですか
いいえ。優越的な関係には、上司と部下だけでなく、年上と年下、先輩と後輩といった関係も含まれます。部下が集団で上司に嫌がらせをする場合は「集団」という優越的な関係を背景としたものと考えられ、特定の部署に長く勤めた部下が新任の上司の指示を軽視・拒絶するようなケースも該当しえます。
会社にはどんな義務がありますか
同法第30条の2により、事業主は雇用管理上必要な措置を講じる義務を負います。大企業は2020年6月1日から、中小企業も2022年4月1日から義務化されており、措置を講じていない企業は法律違反となります。
相談したことで不利益を受けたらどうなりますか
第30条の2第2項は、パワハラについて事業主に相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止しています。また労働局へ相談したことや調停を申請したことを理由とする解雇等の不利益取扱いも、第30条の5第2項および第30条の6第2項で禁止されています。
会社の外に相談できるところはありますか
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談でき、紛争解決援助や調停の制度があります。各労働基準監督署などに設置された総合労働相談コーナーも窓口になります。費用はかかりません。