家族
離婚届に書くのは親権者だけ。あとは全部あなた任せです
2026年4月施行の改正民法で法定養育費と先取特権が新設され、財産分与の請求期間は5年に延びました。それでも口約束を執行できる書面にするのは、当事者の仕事のままです。
日本の離婚のうち、およそ9割は協議離婚です。役所に届を出せば成立します。
そしてその届に書くのは、親権者などごく限られた事項だけです。
養育費も財産分与も慰謝料も、行政が確認する事項ではありません。話し合った内容は、当事者が形にしなければ形になりません。
2026年4月に大きく変わりました
まず新しくなった部分から。改正民法が2026年(令和8年)4月1日に施行され、離婚後の子の養育に関するルールが包括的に見直されました。
法定養育費が新設されました(民法766条の3)。養育費の取決めをしないまま協議離婚した場合でも、引き続き子を監護する側は、離婚の日から子ども1人あたり月2万円を請求できます。調停や審判を経る必要はありません。
養育費債権に先取特権が付きました(民法306条3号、308条の2)。他の一般債権に優先して回収できるということです。
財産分与の請求期間が2年から5年に延びました(民法768条2項ただし書)。
ただし、どれにも適用範囲の線引きがあります。法定養育費は施行日以後に離婚した場合のみで、施行前に離婚して取決めがない方は改めて協議か家庭裁判所の手続が必要です。財産分与も同じで、2026年3月31日までの離婚は従来どおり2年、4月1日以後の離婚に5年が適用されます。
それでも口約束は口約束のままです
改正で底上げされたのは最低限です。月2万円は「取決めがない場合の下限」であって、実際に必要な額とは別物です。
そして肝心なところは変わっていません。話し合って決めた内容を執行できる形にするのは、依然として当事者の仕事です。
ここに日本の制度の特徴があります。離婚協議書を作っても、それは契約書にすぎません。支払いが滞ったとき、通常は裁判等を起こして債務名義を得なければ強制執行ができません。
公正証書と、その中の一行
差を作るのが公正証書です。
離婚に際して作られるものは「離婚給付等契約公正証書」と呼ばれ、①離婚の合意 ②親権者・監護権者 ③養育費 ④面会交流 ⑤慰謝料 ⑥財産分与 ⑦住所変更等の通知義務 ⑧清算条項 ⑨強制執行認諾 の中から必要な項目を選んで条項にします。
このうち⑨が決定的です。
強制執行認諾文言とは、支払いが滞った場合に直ちに強制執行を受けることを承諾する、という条項です。これがあれば調停や審判を経ずに直ちに強制執行の手続に入れます。
逆に言うと、養育費について公正証書を作っても、この文言がなければその公正証書で強制執行はできません。 公正証書を作ったこと自体で安心してしまい、この一行が入っていない例があります。
なお、公正証書の原本は公証役場で20年間保管されるので、紛失や改ざんの心配もありません。
口約束で終わりやすいもの
協議の場では、こういう言葉が交わされます。
「マンションは君が住んでいい。その代わり慰謝料はなしで。」 「習い事の月謝は別に出すよ。」 「養育費はとりあえずこの額で、余裕ができたら上げる。」 「車の名義はこっちのままにして、実際は君が使って。」 「親から出してもらった分には手をつけない。」
これらは公正証書の条項に入れば執行できる債務になり、入らなければただの約束になります。そして揉めたとき、「そんなことは言っていない」と言われれば、言ったと主張する側が示さなければなりません。
確実なのは書面です。 決めた内容は離婚協議書に書き、公正証書にして強制執行認諾文言を入れる。話し合いのあとに「本日うかがった内容はこう理解しています」と一通送っておけば、返信がそのまま記録になります。
難しいのはその場でやることです。感情の動く話し合いで、その瞬間にはどの一言が後で効いてくるか分かりません。
その場を残す方法
TalkSafeはその隙間を埋めるために作りました。あらかじめ言葉を決めておくと、それが聞こえた時点で録音が始まります。画面がロックされたままでも動きます。
キーワードは財産分与、養育費、慰謝料、名義、年金分割など、その話し合いで必ず出る言葉にしておけば足ります。録音開始の直前30秒までさかのぼって保存されるので、一拍遅れて気づいた発言もファイルに残ります。
そのあと確認のメッセージを書くとき、何を書けばいいか分かった状態で書けます。効力を持つのは書面で、録音はその書面を正確に書くためのものです。
ここから先は越えてはいけません
離婚を前にして最も多く検索されるのが証拠の集め方ですが、ここには明確な線があります。
自分が参加している会話の録音は問題になりません。配偶者と向き合って交わした会話、通話、自分がその場にいる間の家族の会話がこれにあたります。日本には盗聴罪がなく、当事者による録音の証拠能力は原則として認められています。詳しくは別の記事にまとめてあります。
自分がいない会話は別です。 配偶者のスマートフォンに録音アプリを入れる、車の中に機器を置いて降りる、家に録音機を仕掛けて外出する——こうして録音されるのはほとんどが他人間の会話です。証拠として使えないだけでなく、それ自体が問題になります。
相手が気づくかどうかは関係ありません。録音された時点で線を越えています。
録音したファイルの扱いについてはこちらにまとめました。録音は手続に提出するものであって、親族や知人に聞かせるものではないという点は、離婚の場面では特に重要です。
まとめると
2026年4月以後の離婚なら、法定養育費と5年の請求期間が使えます。 ただし最低限の底上げです。
公正証書にして、強制執行認諾文言を入れてください。 その一行がないと、公正証書があっても差押えはできません。
口で交わしたことは文字にしてください。 揉める対象そのものが減ります。
そして自分がいる場だけを記録してください。 その線を越えた瞬間、証拠ではなく事件になります。
一般的な情報であり、法的助言ではありません。個別の事情については弁護士や、法テラス(0570-078374)にご相談ください。
協議離婚のとき、養育費や財産分与は役所で確認されますか
されません。離婚届に記載するのは親権者などに限られ、養育費・財産分与・慰謝料の内容は行政が確認する事項ではありません。合意した内容を執行できる形にするかどうかは、当事者に委ねられています。
離婚協議書を作っておけば差押えができますか
できません。通常の協議書は契約書であり、支払いが滞った場合は裁判等で債務名義を得る必要があります。公正証書にしたうえで強制執行認諾文言を入れておくと、調停や審判を経ずに直ちに強制執行の手続に入れます。
強制執行認諾文言とは何ですか
支払いが滞ったときに直ちに強制執行を受けることを承諾する、という条項です。養育費について公正証書を作っても、この文言がなければその公正証書で強制執行を行うことはできません。
養育費を取り決めずに離婚した場合はどうなりますか
2026年4月1日施行の改正民法で法定養育費が新設され、取決めがなくても子ども1人あたり月2万円を離婚の日から請求できるようになりました(民法766条の3)。ただし施行日以後に離婚した場合に限られ、施行前に離婚した方は改めて協議か家庭裁判所の手続で取り決める必要があります。
財産分与はいつまで請求できますか
改正民法768条2項ただし書により、離婚のときから5年に延長されました。ただし経過措置があり、2026年3月31日までに離婚した場合は従来どおり2年、4月1日以後の離婚に5年が適用されます。
配偶者のスマホに録音アプリを入れてもいいですか
やめてください。そうして録音されるのはほとんどが自分の参加していない会話であり、他人間の会話の録音にあたります。証拠として使えないだけでなく違法であり、相手が気づくかどうかとは関係なく録音した時点で問題になります。